2015年 07月 23日
美しき時代とわたしたち ~ 大暑の頃'15
~デュッセルドルフ美術館 ゲルダ・ケプフ・コレクション
(パナソニック汐留ミュージアム)
たとえようのない美しさと気品に満ち溢れた素晴らしいガラスコレクションに、ただただ溜息つくばかりでした。気がつけばあっという間に2時間以上が経過し、それでもまだ見足りない思いを捨てきれず、日を改めて必ずもう一度訪れようと心に決め美術館をあとにしました。
3つの感想を持ちました。まずエミール・ガレやドーム兄弟に代表されるアールヌーヴォーのガラス工芸の職人たちが、絵画芸術の世界に比肩するほどの写実的自然性と抽象性の両世界を豊かに表現する独自の芸術様式を開花させていたことに驚かされました。出展作品群はその生き証人として鑑賞に訪れるわたしたちを終始圧倒します。
また、科学技術や産業、都市文化の発展、成熟した市民社会に後押しを受け、19世紀後半から20世紀初頭に百花繚乱のごとく花開いた、アールヌーヴォーをはじめとする諸芸術文化の覚醒と飛躍は、ベルエポック(Belle Époque、美しき時代)の言葉を待つまでもなく、真の文明国家たるヨーロッパ諸国の威容と底力とをあらためて強く私に印象付けました。
そして最後に、だがしかしこうした躍動を生み出す大きな原動力となったのがジャポニズムやシノワズリといった東洋の美意識の底力でもあったことに思いを馳せるにつけ、いかに今のわたしたちの社会が、「美なるものごと」への関心と時間を失って久しいかをあらためて痛感させられるのです。
必ずしも芸術の分野であるとか、豪華で贅沢なもの、また一握りの階層の人々のあいだでの話ではなく、日々の日常生活や仕事、人間関係といったわたしたちの身のまわりにこそ遍在すべき美意識やヒューマニズム溢れる高い精神性へのあこがれと希求の大切さを、わたしたちはどこかに置き忘れてしまったのでしょう。そうしたやり切れぬ思いをひそかに抱き続けるわたしにとって、この日の訪問は甘美ながらも同時に胸騒ぎ治まらぬひとときでした。
甘いのでしょうね、たぶん。こうした自己憐憫にも諦観にも似た想いを抱き今の時代を嘆息することは。もう歳なのでしょう。
というわけで、1,000円のつもりがうっかり10,000円PASMOにしっかりとチャージしてしまったこと(機械ものにいまだに弱い)、お昼には久し振りにナイルさんのカレーをと東銀座まで足を伸ばしたものの、お店が夏休みだったこと(こまめなネットチェック習慣の欠如)、突然の土砂降りの雨ですっかりずぶぬれで帰宅する羽目になってしまったこと(同じくリアルタイム情報へのアクセス不適応)、など何とも腹立たしい出来事には目をつむり、それらを差しい引いてもなお余りある美しい時間をすごすことができました、と自らに言い聞かせるあたりが、現代を生きるわたしなりの、心を整えるうえでの精一杯の落としどころなのでした。
アール・ヌーヴォーガラス展は9月6日(日)まで(2015年7月23日)
メンタルケア&カウンセリングスペース C²-Wave麻布十番ウェブサイト
by yellow-red-blue
| 2015-07-23 21:09
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