2017年 02月 20日
詩三篇 ~ 雨水の頃’17
休館日
2月の午後の雨は冷たく
ほどなく雪かみぞれに変わるかのようで
鬱蒼たる木々の奥は薄墨色に靄り
近くの木々には雨音とわずかな風のささやきがめぐる
図書館にひと気はなく
濡れる建物はどんより重く沈黙にひっそりと
あたりに響くのは
重い足を引きずるわたしの濡れた靴音と
重い枯れ葉を集める清掃員の熊手の音
誰もいない雨の日は
作業がはかどるといわんばかりに
雨音は黙々とかき消され忘れ去られる
気が付けば、樫の木の下にたたずむ少女の姿
太い幹に左手のひらをあて、ひっそり目を閉じている
右手に赤い傘
少女の傍らを
木と一つになったその姿を軸に
わたしと清掃員が
それぞれの方向へと、それぞれの目的へと
うつむき加減にゆっくり過ぎ去る
微動だにしない少女の祈り
かつてわたしも
木々に手を触れたことがあったろうか
だが、少し臆病だったろうか
本当はつらかったろうか
突然目の前を
ピンクと茶色のランドセル
黄色と赤の小さな傘
閉じられた建物の入り口へ一直線
しばしの雨宿り、道草とおしゃべりの
ひそかなたくらみ
帰り道
すでに少女も、ランドセルの二人も消え
雨と靄の灰色はいっそう拍車がかかり
あたりのすべてが、遠い存在のようで
ふと、さきほどは夢のことにも思えたあの子たちが
今ではすっかり現実に思え
むしろ、わたしと清掃員が
淡く、おぼろげで、頼りないまぼろしのようで
散歩道
昔、父がよく連れて行ってくれた
日曜の朝の散歩
富士の眺めがとてもいい場所へむかって
でも、本当は
本当に見たいのは、本当に知りたいのは
丘沿いにどこまでも続く、住宅の連なる坂道の先にある
すがすがしい朝の青い富士ではなく
坂へと続く長いトンネルの手前
枝別れする未舗装の、ずっと小さく短いトンネルの
その先の世界
真っ暗のその先にある
どんよりと曇り空の支配する世界
ちらりとその先に見える
灰色にたたずむコンクリートでできた
誰もいない団地か、小さな工場か、古いトーチカみたいに
いつか見たような未知の世界
希望と不安、あこがれと挫折の中
横目に見ながら、いつものように
長いトンネルをはずむようにまっすぐ進む、父や姉達と一緒に
暗闇に反響する声は、壁に映るわたしたちの影は
幸せ一杯のよう
すがすがしい朝の青い富士を見るため
笑みを浮かべ、ため息をつきながら
朝
悲しげなあの人の夢を見た朝は
それが、久し振りに飲んだ
昨晩の酒のせいだと考えることにしよう
お酒も料理も、人もまたあたたかい
けれども、灰色に靄のかかった
あの人の姿や言葉はまるで
僕への悔恨とやりきれなさの
風雨に打ちひしがれ、つめたい電柱に張り付いた、やはり灰色の
寂しく朽ちたモノクロポスターのよう
そんな今日が日曜であることに
感謝をしよう
全てがキラキラと金色いろに光り輝いて
どこからか、かすかに朝食の音と匂いと船の汽笛を運んでくる
日曜の朝であることに
遠い昔の思い出のように
(※すべて作り手本人の許可を得て掲載しています。)
皆さんは、何を感じるでしょうか?何を考えるでしょうか?あるいは何を思い起こすでしょう?
さらっと眺めた時とゆっくり丁寧に繰り返し味わう時、黙読と音読、あるいは読む時期や読み手の境遇で、受け取り方は様々かもしれませんね。
もし興味が湧いたら何をどう感じるにせよ、いったんその気持ちや感想を何らかの形にしてみましょう。批評や作者の心情、気になった表現、なぜかふと思い出した事やこみ上げた感情をどこかに書き留めるでもなんでも構いません。読み手から今度は作り手となって別の何かを表現してみても構いません。そして、何故そう感じたのか、そうしたのか、あるいは何もしなかったのか、少しだけ自分に問いかけてみて下さい。たとえ何もなかったとしても、それもやはり意味のある経験です。たとえば、自分にこんな問いかけをしてみることができます。
①3つのうち、詩を一つ選び、詩の情景について頭でイメージしてみます。
②その情景に何が見えるでしょう?何が見えているでしょう?
③何が見えないでしょう?あるいは「ない」と感じるでしょう?
④あなたは何が見たいと感じるでしょう?
⑤なぜあなたはその詩を選んだのでしょう?それは②~④とどんな関係があるでしょう?
(②~⑤はできるだけ細かく描写してみます。)
最後までお読みいただいてありがとうございます。
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