信号待ちの母子 ~ 冬至の頃‘17


 「あ、またあの親子がいる。」

そう思ったのがつい先週のこと。若いお母さんと幼稚園に通うぐらいの女の子というどこでも見かけるような母親と子どもが、仕事場近くの狭いながら交通量の多い通りの交差点で信号待ちをしているのを目撃したのは、もうこれで4度目くらいでしょうか。

 考えてみれば、ご近所にお住まいか通学の送り迎えの途中であれば、だいたい同じ時間帯に行き来するので、出会うことなどそう特に珍しいことではないのです。ただ、その親子のことがなぜ印象に残っているのかといえば、いつも同じ光景を目にするからです。お母さんが娘さんを厳しく叱責、お説教する光景です。

 どこか私立の幼稚園とおぼしき制服に身を包む幼い女の子と、そうした子どもの保護者にお約束のようなシンプルな濃紺のスーツに身を包んだお母さん。交差点脇で屈みこみ、小さな女の子の顔を下から睨み付けるかのように何事かしゃべっているお母さんはいつも苛立っており、そして女の子は真っ赤な泣き顔であることが、道路のこちら側からもよくわかります。私はデジャヴのように同じ光景をいつも目撃していたのでした。

 親子といっても事情はさまざまです。ある一場面を切り取ってその親子関係のすべてを語ることはもちろんできないし、親とて人間、いつも完璧とはいかないし、幼い我が子とは言いながら感情をむき出しにして当たり散らすことだってあるに違いありません。叱ることも時には必要、そんな親子も普段はとても愛情たっぷり仲良しなのかもしれません。

 実は最初この親子を見かけた時、交差点の同じ側のすぐ隣にいて、この親子のやり取りをすぐ近くて見聞きしていました。

  

「ねぇちょっと。お母さんどうしても理解できないんだけど、教えてもらえる?どうしてああなっちゃうわけ?」

「あり得ないよね。他のお友達見てごらんなさい。ちゃんと説明して?ねぇ、~ちゃん。」

「返事は?聞こえてる?」

「そういう返事の仕方でいいって誰から教わったの?手はどうするんだっけ?~ちゃん。」

「いい加減にしてもらえる?」

ひっきりなしの車の往来の騒音の中から漏れ聞こえてくる言葉の断片の抑揚や言い回しは辛辣で威圧的、またとても幼い子どもへ向けるべき言葉の選択ではないようにも思えました。それは間違いを叱責するというより自尊心を傷つける言葉の投げかけ、ハラスメントに近いものです。

 何よりも気になったのは、その親子の「目」でした。お母さんの目に見え隠れする、弱い立場の人間に優位性と支配性を示す密かなやり込めた感のある満足げな表情と、一方、矢継ぎ早に繰り出される言葉と大好きなお母さんの鬼のような形相に頭が一杯で、ひたすらに委縮する女の子の「目」。

 こうした関係が知らず知らずのうちに常態化すると、後々健全な親子関係の構築や維持には困難が生ずるかもしれませんが、これ以上詳しい事情を知らない親子のことをあれこれ言うべきではないでしょう。

 

でもただひとつ言えるのは、このお母さんだって懸命に頑張っているに違いないのです。私の所にも子育てに伴うストレスでつい家族や子どもにハラスメント行為を働いてしまうお母さんの相談が寄せられます。今どきの学校の先生が激務とストレスで身動きの取れない状況にあるのと同様に、お母さんとて仕事に子育て・教育、地域や学校から寄せられる様々な要求や人間関係をこなすなど、直面し処理しなければならない課題は日々パンパンの山積みです。子どもや家族に対しめったに弱音を吐けないお母さんには、それをしっかり受け止め、こころのうちを明かすことのできる身近な存在もまたあるようでないのです。冷たい余裕のない表情の裏には、優しいゆえの懸命なこころの葛藤があるに違いありません。人生において人が人に優しくいられるということはそれほど簡単ではないのです。

 

 仮に交差点で見かけた親子にどんな言葉掛けができるだろうか?ふと考えて、あるお母さんとの会話を思い出しました。しばらくのやりとりのあと、そのお母さんの表情を見てふと何の根拠もなくこんな質問をしてみました。

「あの、最近泣いたことってあります?」「泣いたことですか?」

「ええ、悲しくても感動でもいいんですけど。自分の感情が溢れるにまかせて涙することってありますよね。そんな経験最近なさいました?」そんなこと考えてみたこともなかったとおっしゃいました。

 私はそのお母さんに、親子で感動するような映画やテレビ番組、本などを一緒に見ることを勧めてみたのです。季節もクリスマスを迎える今頃のことでした。カウンセラーらしからぬいささか直観的場当たり的なアドバイスとはわかりつつも。

 子供向けのアニメでも、ちょっと子どもには難しいかなぐらいの大人向けの映画でもいいのです。親子でこころから「泣ける」ひとときを共有できるような作品に接する機会をぜひ作ってみて欲しいのです。一緒に感動し泣いて、そのことについてできるだけ言葉を投げ合ってみる。親子の間だって、いえ逆に親子だからこそ本当にオープンになることなんて少ないかもしれません。

クリスマスは、きらびやかなイルミネーションや美味しい食べ物や物に囲まれることだけがすべてではありません。こころ揺さぶられる素敵な体験が共有できる絶好の季節でもあります。

お母さんの涙と告白は、本当は子供だって見たいし聞きたいのです。それが親子なのですから。


最後までお読みいただきありがとうございます。

メンタルケア&カウンセリングスペース C²-Wave 六本木けやき坂

過去のブログ記事

d0337299_16213612.jpg



[PR]
トラックバックURL : https://c2waveblog.exblog.jp/tb/26264025
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
by yellow-red-blue | 2017-12-24 16:24 | Trackback | Comments(0)

「いま」について日々感じること、心動かされる体験や出会いなど、時にカウンセラーとして、また時に仕事から離れ、思いつくまま綴っています。ブログのどこかに、読む人それぞれの「わたし」を見つけてもらえたら、と思っています。


by yellow-red-blue
プロフィールを見る