2019年 02月 04日
カウンターが効く!? ① ~ 立春の頃’19
暦の上では春の始まりを告げる立春ですが、実際には冬ももうそろそろ終わりですよ、の暖かさなどみじんも感じられない日々が続く、寒さに身が縮む思いのする厳しい季節です。けれども、都心から望むこの時期の富士山の雪化粧姿は一年のうちでも最も美しく、神々しさすら覚えて朝に夕にとつい見入ってしまいます。
そんな富士を眺めながらふと、大雪に弱い東京の人間のくせに、この冬はまだちゃんと雪が降ってないな、そろそろまとまってこないかななどと、北国の苦労をよそに勝手に子供じみた願望をつい抱いてしまいます。そんな自分の幼稚さにきついお叱りを受けているかのようなこの寒さ、これからまだしばらくは続きそうです。
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週末の土曜日、午後も遅い夕方近くの頃、仕事を終え帰りの準備をしているときにこんなお電話がかかってくることがしばしばあります。
「どうしても今日お願いしたいのですが。」
「実はもう今近くにいるのですが。」
「他をいろいろ当たりましたが、週末で休みか事前予約なしでは受け付けていないので。」
事情を聞けば、
「嫌いな上司と仕事のことで口論となり、腹立ちまぎれに暴言吐いて会社を『辞める!』と飛び出してしまった。週明けの出勤を考えるだけでもうパニックなんです...」
「自分のウソがばれて先日会社を解雇されてしまったが、家族に打ち明けられずにいる...」
「妻に職場の同僚との浮気がバレてしまい、家を追い出された。妻は身重なんです...」
週明けの月曜日までになんとかしなければ...そんな切羽詰まった思いが伝わってきます。
カウンセリングに訪れる人のニーズは随分と多様化しています。かならずしも臨床的に診断される精神的病に苦しんでいる人や、病気とまではいえないが心身に同様の深刻な症状を訴える人ばかりではありません。最近はむしろ、より日常の生活で起こりがちな問題への心理社会的なストレスに悩む人が相談に訪れることのほうが多いように思います。
そうした場合、ただシンプルに社会一般的な常識に基づく助言や提案が必要な方もいれば、胸のつかえを洗いざらい告白することによって満たされ癒しを得て立ち直っていく人もいます。
あるいは心理面の支援よりむしろ現実の日常生活を安定させたりその質を向上させるような具体的な支援が治療的に働くことも珍しくありません。
また、専門的な知見からすれば原則から外れていたりむしろ望ましくないと考えられている対応がかえって問題解決の大きな助けになることだってあるのです。
やや大雑把な言い方になりますが、長い間抱えて放置されてきた問題については、一定の効果や改善が短期間で現れることも少なくはないものの、やはり解決や(病気や症状の)治癒にはそれなりに時間が必要となります。
反対に、比較的最近に起きた出来事がきっかけとなった日常社会生活に起きがちな問題についての相談については、短い期間でカウンセリングが終結することが多いように思います。一度の面接相談で終わる場合も珍しくありません。
短期間で終結するには3つの理由が考えられます。まず何よりも相談者本人が早急な解決を望んでいることです。上でいくつか例として挙げましたが、一刻も早く答えが欲しい、今日明日という感じで訴えていらっしゃることが多いのです。2つめの理由は、まだ起こって間もないホットな出来事に関することなので、問題の背景や構造がシンプルで問題の焦点が絞りやすいということなどにあります。
けれども、早く終結する一番大きな理由(3つめ)は、たいていの場合に「答えは本人が知っている」から、というもののような気がしています。確信的であれ無意識的であれ、すべきことの選択肢はわかっているのだけれど、それをまだ現実的な解決方法なり決断として明確にできない、それを確信させるプロセスなり心の準備をどう整えればいいのかがわからない、悩みに圧倒されて広い視野を持つ心の余裕が持てない、といった感じです。ゴールはわかっていても、そこまで走りきる体力も気力も今あるとはとても思えない自信喪失のスタート直前のマラソンランナーといったところでしょうか。「どうしたらいいか」を知ることにあせってしまい「何が問題なのか」に目を向けることが難しいことは私たちによくあることです。
カウンセラーは、そんな人に並走し励ましながらお互い一緒にゴールを目指すパートナーのようなものですが、ではそうした場合に実際何をするのかと言えば、相談者とじっくり「話し合うこと」につきます。勇気をもって相談にいらした方の決断と労に敬意を払い、本人の気持ちを十分すぎるほどに耳を傾けながら対話を重ねていくことが第一で、ここにじっくり時間をかけていくようにします。ですが、簡単なようでいてこれは実際には難しいことです。ただ通り一辺倒の悩みの内容を聴きそれを理解するだけならば、たいていは10~15分もあれば済んでしまうからです。そこでついその先のアドバイスや意見、具体的な対処方法などの話に移ってしまいがちですが、それでは相談者本人はしっかりと自分を受け止めてもらえたという実感が薄く、問題に対する受け身的な姿勢から脱却できないままです。
ですからそこからさらに、それこそ微に入り細に入りて想像力もめぐらせながら、プライバシーを不必要に掘り起こすことは避けつつ、様々な切り口や表現を駆使して言葉を重ね合い、相談者の気持ちや考えを引き出し共有していきます。その過程を共に体験していくことが次第に本人の意識の変化へとつながっていくように思います。
カウンセリングは1回おおよそ60分(以内)が目安です。時には60分を大きく超える時間を話し合うケースもありますが、初めての方の多くが持たれる感想が、「こんなに長い時間、自分のことについて他人と一緒に考えたり対話をした経験は今までなかった」というものです。普段私たちはさまざまな会話をしても、自分と向き合うような話し合いを他者と行いながら内省する機会を持つことは稀です。そんなまとまった時間を体験することそのものが、実はカウンセリングの一番の強みです。たとえ出される結論が本人がうすうす感じていたこととあまり変わらないものだとしても、一緒になって感じ取っていく過程を共にすることで本人の受け止め方が随分と落ち着いて前向きなものとなっていきます。状況を受け入れながら解決を現実のもの、実行可能のものとして実感できるようになっていくのです。
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そして、何となく準備が整ったと感じたあたりで、私は以下のようなシンプルな質問をすることが時にあります。
「今どうしたら一番いいかなと考えていますか?」「どうしてそうなってしまったのかお考えがありますか?」
「もし、あなたにとってとても大切な人が同じ問題で悩んでいたとしたら、どんな言葉がけや助言をなさりたいですか?」
十分な話し合いの後では、こうした質問に対して多くの人がしばらく考えた後に、たいていちゃんと回答することができます。そう、知っているのです。そしてその結論に対して、より冷静に気持ちが整理されていることに気が付かれます。あとはその内容について細かな確認や微修正を加えたり、相手の背中を上手に押すような助言なり話し合いをさらに重ねていきます。もちろんいつもそううまくはいくわけではありません。解決の糸口がみつからずに終始ギクシャクした対話で時間だけが経過するといった経験もします。私もまだまだ修練が必要ですが、そのあたりにカウンセラーとしての技量が問われるのでしょう。
ところで、「どうしたらいいか」と聞いてきた相手に同じ質問を逆に投げかけてみたり、自分の問題をあたかも他人が抱えている問題として客観的な距離をおいて考えてみる、こうした問いかけを「カウンタークエスチョン」などと言います。「相手の身になって考える」「もしあなただったら」「こっちの身にもなってよ」「そう言われるこっちの気持ち考えたことある?」などとちょっと似ています。なんだそのくらい、と思われるかも知れませんが、このカウンタークエスチョンを上手に工夫するとそれは大きなパワーを持ちます。
けれども、あくまでその前の「話し合うこと」がとても大切なプロセスです。そこをおざなりにした(カウンター)クエスチョンをいくら繰り出しても、それは効果的な(カウンター)パンチにはなりません。
そんなカウンタークエスチョンが効果的に働いたちょっとしたエピソードを次回はご紹介したいと思います。
最後までお読みいただいてありがとうございます。
メンタルケア&カウンセリングスペース C²-Wave 六本木けやき坂