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“ライフスタイル”の重み ~ 小満の頃’19


 先日ひさしぶりに東北へ旅行に出かけた時のことです。日中昼間にはほどんど人通りのないひなびた風情の小さな町中をしばしぶらぶらした後、どこかでひと休みしようかとあたりをきょろきょろしていると、東京ではお馴染みのグリーンが基調のカフェの看板が目の前に唐突に現れました。ありがたいやら、でもせっかく東京からこんなに遠くに来てまで、とがっかりするやらなんとも身勝手な気持ちにさせられる一方で、今やこんなのどかで懐かしささえ覚える日本の原風景のような小さな町にまでスタ〇があるのかと少々驚かされました。ほんの数年前、地方都市に住む友人の誕生日に、たまにはちょっと風変わりなものでもと今どきのカフェで使えるプリペイドカードやマグカップを贈ったところ、「東京じゃあるまいし、そんなこじゃれた店こっちにあるわけないよ」と一笑に付されたことがもうはるか昔のことのように感じられます。



 

 シアトルという名前で何を思い浮かべるでしょうか?

 アメリカ太平洋岸の北西部ワシントン州の大都市であることは多くの人がご存じのことでしょう。また、ボーイングやマイクロソフト、アマゾン、任天堂、ベンチャーITといった今時のグローバルトレンド企業の誕生の地でもあることでも有名です。野球に詳しい方なら、イチローが現在でも在籍するシアトルマリナーズの本拠地としてお馴染みでしょう。

 加えてシアトルの名を最も有名にしたのは、冒頭旅先で私が出くわしたスターバックスやタリーズ、シアトルズベストといった、いわゆる“シアトル系”といわれるカフェ文化の発祥の地であることかもしれません。都市部を中心に今や世界中いたるところにあるこうしたカフェに、いい香りの飲み物と自分だけのくつろぎの時間、あるいは勉強・仕事の場を求め多くの人々が日々集まっています。 


 80年代後半から90年代頃のアメリカにおいて、シアトルという街や言葉の響きには、従来のアメリカの政治経済文化の中心である東海岸でもまたカリフォルニア西海岸でもない、新たな生活や生き方を予感させるトレンドとしての象徴的ニュアンスがあったように記憶しています。"ライフスタイル"という言葉がさかんに使われトレンディな表現として定着したこともこのいわばシアトルスタイルと無縁ではなかったでしょう。今では日本でもごく日常的にとかく便利使いされる言葉です。


 そのシアトルという地名が、かつてこの土地で暮らしていたアメリカ先住民(ネイティブ・アメリカン)の族名であることを知る人は少ないかもしれません。インディアンといえばアメリカ西部のほんの一部の地域に暮らしていた少数先住民と思っている人もいるかもしれませんが、実はかつてアメリカ全土隅々までたくさんの先住民族が存在し、それぞれが独自の伝統文化を持ち暮らしていました。彼らの多くがやがてヨーロッパから大挙押し寄せてきた白人によってその生命や住み慣れた土地を奪われ、先祖代々受け継がれてきた誇り高い精神性と伝統文化までもが野蛮なものであるとして否定され、強制的な同化政策をはじめとするアイデンティティのはく奪という悲劇が長い時代続いたことは周知の歴史的事実です。

 シアトル族の人々もそうした歴史の例外ではなく、19世紀の半ばアメリカ政府との条約締結によって、代々住み慣れた豊かな土地からの強制退去と不毛な居留地への強制移住を余儀なくされたといいます。

 母なる大地を追われたシアトル族の人々にとって後の人生に残されたのが、白人国家支配をただ生き延びるためだけのライフスタイルだったとしたら、それは悲劇以外のなにものでもなかったでしょう。現代のライススタイル発祥の地シアトルが、かつてアメリカ先住民の素朴で深遠な精神生活を営む暮らしが根こそぎにされたその地であったことは何とも皮肉な話といえるかもしれません。



  

 私たちもまた、急速な時代と環境の変化に耐えそれに素早く順応することを陰に陽に強く要請される社会に生きているといえます。そうした要請に対し心理的な抵抗感や疎外感をひそかに抱えながら生きている人が世代を超え数多く存在しているという実感を私は仕事を通じて持っています。すべてを時代や社会のありかたのせいにすることは安易でありフェアではないとしても、やはりそこにはただ生き延びるためだけに送らざるを得ない苦悩の人生が看過しがたいほどの切実さをもって現実の私たちの周囲に横たわってはいないか?そのこととアメリカンネイティブの辿った道とになにがしかの共通項を見出すのはあまりに無茶苦茶な絵空事だとは頭では理解していながら、それでも何かもやもやとしたものを捨てきれずにいます。本当はそうとも言えないのではないか、と。

 

 旅の途中で見かけた日常ありふれた看板からふととめどもなく思いがめぐっていく。日常を離れ、離れたいと願えばこそかえってその日常が別の道をたどりやがて自分に迫ってくる。それもまた旅することの意義であり得難い魅力なのかもしれません。


最後までお読みいただいてありがとうございます。

メンタルケア&カウンセリングスペース C²-Wave 六本木けやき坂

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by yellow-red-blue | 2019-05-21 22:50 | Trackback | Comments(0)

「いま」について日々感じること、心動かされる体験や出会いなど、カウンセラーとして、また時に仕事から離れ、思いつくまま綴っています。ブログのどこかに、読む人それぞれの「わたし」や「だれか」を見つけてもらえたら、と思っています。


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