2021年 06月 26日
傷ついているあなたへ ① ~ 夏至の頃’21
私は面談によるカウンセリングを基本にしていますので、できるだけ直接お会いしてお話を伺いたいと相談者にはお願いしております。ただ、本人の強い希望や様々な事情や状況もあるため、最近では電話やインターネット媒体(電子メールやSNS、リモート)などさまざまな手段を利用したりそれらを組み合わせるなどしてカウンセリングを行うケースも出てきます。そうした便利な媒体や手段によるカウンセリングにはメリットもある一方で、直接面談方式に比べ制約や限界があるのも事実ですので、そうした点をできるだけ説明しご理解いただいたうえでカウンセリングを進めることにしています。
これから何度かこのブログで取り上げるのは、面談によるカウンセリング中、相談者から寄せられた問い合わせや意見、近況報告などのメールへの返信、あるいはカウンセリングは希望しないが話だけは聴いてほしい、なんらかの意見や助言は欲しいといった相談者への返信です。こうしたいわば簡易な対応は、広義な意味におけるカウンセリングの一環といえばそうとも言えますし、専門技法に基づくカウンセリングプロセスとは別のものとも言えます。
誰一人として同じ人はいないように、カウンセリングの手法やプロセス、それらがもたらす効果は人によって実にさまざま多彩です。心理療法的プロセスをたどり一定の期間を要するケースもあれば、シンプルな助言や人生訓、世間的一般常識の話が中心で短期で終結することもあります。心理学的あるいは精神医学的にはむしろ望ましくないかあるいは原則から外れていると考えられるような対応や言葉掛けが、かえって相談者に治癒的に働き回復の大きな助けとなることもしばしば起きるし、心理的支援よりもむしろ現実の日常生活を安定させその質を少しでも向上させるような支援がポジティブな結果につながることも珍しくありません。
精神科の医師やカウンセラーは、訴える症状や悩みを診るだけではなく、背景にあるその人がたどってきた生活や人生も「診て」いきます。症状と個々人の「文化」や「歴史」が相互に深く影響しあっていることを考えれば、全てのケースが言ってみれば「特殊ケース」なのです。
「原則に忠実な者ほど柔軟である」(レーニン)という言葉がありますが、カウンセリングにおいても最も大切なことは、ベースとなる専門領域の知識や原則、技法であったり、自己の価値観や人生経験、感性などに一定の信頼を置きつつも、同時にそれらの限界をも常に心の隅に意識し、単純にマニュアル的あるいは演繹的に適用することなく、相対する人や状況、語られる内容の現実についてさまざま考えや想像を巡り合わせながら、その場その場に柔軟に、ときとして大胆に対応していくことであろうと考えています。
守秘義務にかかるプライバシーの保護もありますが、お読みいただく方にも相談者についていろいろ想像や考えを巡らせていただきたいので、あえて私の返信内容のみを掲載しています。
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みさき(仮名)さん
こんばんは、はじめまして。
カウンセラーの荒井と申します。お返事が夜になってごめんなさい。
一生懸命に書いて下さった長い長いメール拝見いたしました(実は私が今までに受け取ったメール文で最長記録です(*^-^*))。
3度ほど読み返しました...正直に打ち明けますが涙がとまりませんでした。
カウンセラーでしょうに、と思っているかもしれませんね。でも相談者のお話を聞きながらたびたび涙ぐんでしまうのは、恥ずかしいのですが私の性分のようです。
こんなに長いメールに気持ちをつづってもらいながら、きっと私はその本当の辛さの10パーセントも理解できていないだろう、それほどにみさきさんのご経験は厳しいものだったろうと、自分の無力さを痛感するゆえの涙です。
小さい頃から長年に渡って受け続けた家族からの身体的虐待やネグレクト、そして心理的虐待は、想像を超えるショックと深い心の傷をみさきさんに与えてきたのでしょう。成長にともない身体への暴力はなくなったとはいえ、その他の虐待はたびたび今もって続いていることへの苦痛と不安が痛いほど伝わってきました。
本当は一番安心したりホッできたりするはずの家庭や家族が地獄のように思えてきたかもしれません。そんな中で必死に耐えながら、中高の学業とそしてつい最近までお仕事にこんなにも頑張ってこられたなんて、驚きと称賛の気持ちで一杯です。
私がもしあなたの立場にいたら、こんなにも頑張れたかどうかは自信がありません。いえ、とっくの昔にこう思っていたでしょう。「またか、もううんざり!耐えられない!そろそろこっちはバス降りるから!」って。
みさきさんも本当はくたくたなのかもしれません。でも、それでも頑張って通院する、お医者さんや職場の人達に会う、そしてこんなに長いメッセージをつづることができる...どうしたらそのようなエネルギーがあなたの中から沸き上がってくるのでしょう...
きっと頑張り屋さんのみさきさんの周りには、想像している以上にみさきさんの本当の姿を理解し、そして好意を持って応援してくれている人がいらしゃるのですね。人数の多い少ないは関係ありません。それはとても羨ましいことです。できればそんなあなたの仲間ともっと会ったり話したりしてみてください。相手も嬉しいと思っているはずです。
一刻も早く一人で暮らして家族から離れたいと思っていらっしゃるのですね。その気持は本当によくわかります。ただ、たとえ一人暮らしを始め、いっとき家族の問題からは解放されたとしても、病気の治療を受けているいまの段階では、前向きに生きていくエネルギーがなかなか出てこない、いわば車で言うと「ガス欠」に近い状態かもしれません。自立への不安と自信のなさがかえって病気を悪化させてしまいかねない、と主治医の先生(とても優しくご理解のある先生ですね)も考えていらっしゃるからこその助言だったと思います。みさきさんのご家族への対応も先生はきちっと考えておられますし難しいことだとは思いますが、しばらくは主治医の先生を信じて頼って、通院を頑張ってみてはいかがでしょう。そして、実際に起こったこと、感じたことをこれからも洗いざらい主治医の先生に話していってみてください。そして誰が何と言おうと、今は遠慮なく自分に「休息」を許してあげて下さい。これからのために。
みさきさんの詳しいことを何も知らない私がこれ以上言うのは無責任ですね。何もできずに本当に申し訳なく思います。
みさきさんから頂いたこのメール文、これからも大切にします。私がカウンセラーとして迷ったり悩んだり、自分に負けそうになったとき、これを読むことにします。
なんだか勇気づけなければいけないはずの私が、みさきさんから勇気をもらっている気がしています(もう泣くのはやめます(#^^#)
お身体どうぞ大事になさってください。またいつでもメールください。
(うつ病で治療中の10代女性からのメールへの返信から。カウンセリングは行わずに数度のメールのやりとりのみ)
最後までお読みいただいてありがとうございます。
(当ブログ記事で言及されているエピソードや症例等については、プライバシーを配慮してご本人からの掲載許可をいただくか、もしくは文章の趣旨と論点を逸脱しない範囲で、内容や事実関係について修正や創作を加えて掲載しています。)
by yellow-red-blue
| 2021-06-26 10:45
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